王子を甘やかせ隊

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第5話:ナゲセン箱は空っぽだけど、王子サマはくじけない。

おはなし

おはおーじ!

冬の凍てつくような冷気が、石造りの城内を容赦なく吹き抜けていく。
かつての栄華を象徴する装飾も、今は予算不足でくすみ、もの悲しさを語る。
しかし手入れだけはしっかりしてあり、回廊の隅には埃が積もっることもない。
しっかりと愛を持ってそれぞれの仕事をこなすワガママ城のものたち。
この場所に足りないものは、金貨だけなのであった。

そんな悲しき静寂の中、左に少し傾いた王冠を載せた、鮮やかな緑の髪が揺れる。

ワガママ王子は、首回りに白いファーのついた赤いマントを翻し、執務室の中央で立ち止まった。
その緑の瞳が凝視しているのは、一台の「魔法のナゲセン箱」。
かつては国民の愛が金貨となって溢れていたその箱には、夜中に風に運ばれてきたであろうカサカサの枯れ葉がたった一枚、虚しく横たわっているだけだった。

王子
王子

………………

王子の沈黙に、傍らに控える銀縁メガネの男が、静かに手帳を閉じた。
王子は執事に尋ねた。

王子
王子

執事……これ、僕サマの目が魔法でバグってるだけだよね?
ステーキが枯れ葉に見える魔法、まだ解けてないのかな?

執事
執事

いいえ、王子サマ。
現実でございます。
俗に言う『爆死』、あるいは『大惨敗』という結果でございますな。

執事は冷淡に事実を突きつけた。
王子の目はちょっとうるうるしている。

そこへ、廊下から激しい足音と、財政難を示す分厚い帳簿の束と算盤(そろばん)を抱えた男が飛び込んできた。

大臣
大臣

王子サマ!
何を呆然としているのですか!
この惨状、一体どう責任を取るおつもりですかじゃ!

執事
執事

これでは年末年始もパンの耳です。
おせち料理もパンの耳です。

王子
王子

うぅ…。
それ、かなしいたけ…。

シェフ
シェフ

食物庫には椎茸も生えません…。

王子
王子

僕サマがこんなに可愛く(※当社比)お願いしたのに、ナゲセンが0だなんて……。
このままじゃ、明日からパンの耳すら危ういじゃないか。

大臣
大臣

ああ、先代の王にお顔向けできません!
申し訳ございませんじゃ!
拙者、今すぐ責任を取って切腹いたしますぞ!
ですじゃ!

執事
執事

大臣、床が汚れるので切腹は中庭でお願いします。
それよりシェフ、王子サマにお食事を。

執事の冷静な制止に合わせ、厨房からシェフが銀のトレイを運んできた。
その上には、パンの耳をバラの花のように飾り付けた、涙ぐましい努力の結晶が載っている。

シェフ
シェフ

王子サマ、本日の宮廷ディナー……『パンの耳と余り野菜のデミグラス煮込み・宝石の雫仕立て』でございます。
予算がない中、精一杯豪華に盛り付けました。

王子がフォークを伸ばそうとした、その瞬間。
王子の「グリンピースセンサー」が、激しく警報を鳴らした。

王子
王子

……シェフ。
このソースの奥に、王子サマの天敵『グリンピース』をすり潰して隠したよね?
僕サマのセンサーを舐めないでほしいな。

王子は唯一、グリンピースに関することだけには厳しいのである。
普段はうっかりものだが、そこだけはしっかりしている。

王子
王子

うるさいな。

シェフ
シェフ

ぐわっ!
バレたか!
栄養を摂っていただこうと思ったのですが……!

王子
王子

これはもう食べない。
メイドにあげる。

メイド
メイド

や~ん、王子サマを間接キスですかぁ?
うれしすぎますわっ♡

王子
王子

いや、口つけてないからっ!

王子は覚悟したように羽根ペンを握りしめると、震える手で――空腹か武者震いかは定かではないが――新たな掟を羊皮紙に叩きつけた。

王子
王子

……決めた。
こうなったら、僕サマを『本気で甘やかしたい』という選ばれし国民だけを集める場所……【王子サマを甘やかす会】を作ることにするよ!

その様子を、影からじっと見守っていたメイドが、スマホの画面を確認しながら熱い溜息を漏らす。

メイド
メイド

王子サマぁ……その『甘やかす会』という響き、最高です……!
今の、グリンピースを見つけ出した時の凛々しいお顔も、即座にSNSで国民に共有したぁいっ!

話を戻すけども。

執事
執事

ほう、それは一体どのような……?

王子
王子

フフン、それはまだ内緒。
ただ、そこでは僕サマがお忍びで活動したらどうするかとか、普段は忘れちゃうような本当のワガママも……全部さらけ出しちゃうかもね。
国民諸君はそれまで、せいぜい王子サマを甘やかす準備をしておくことだね!

執事
執事

流石(さすが)は王子サマ。
転んでもただでは起きぬその姿勢、感服いたしました。

王子
王子

3人寄れば文殊の知恵とか言うけども、世の中に自分に似た人は3人いるらしいからねっ!

執事
執事

ちょっとなに言ってるかわからない…。

不敵に微笑む王子の背後で、大臣は

大臣
大臣

ああ先代! 王子サマがますますワガママに……!
やはり切腹しか……!

と、あらぬ方向を向いて絶叫していた。

次回予告。
ついに『王子サマを甘やかす会』が発足する!!
……かも?
お楽しみに。

おつおーじ。

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