見上げれば、天井にはかつて数千のキャンドルを灯したであろう巨大なクリスタル・シャンデリアが、薄暗いまま沈黙している。
窓辺を飾る金糸のカーテンは、陽光に透けてその端から静かに解け始め、かつての栄華を誇った壁の金装飾は、剥げ落ちた隙間から「ここはもう、空っぽなのだ」と嘆き涙を流しているようだった。
実は、王子には課されたミッションがあった。
王様から「将来、王子が立派な王になるため、自らの力でこの城を再び輝かせよ」と命じられ、託された場所。
それがこのワガママ城。
ここは、王子の修行場でもあったのだ。

……はぁ、今日も王子サマは世界一尊いです。
猫と遊んでいるだけなのに、どうしてこんなに輝いているんでしょう。
存在がすでに国宝ですよね!
ピンク色の髪をしたメイドは、掃除の手を止めて、うっとりと中庭を見つめていた。

ねぇシェフ、見てください。
王子サマのあくび。
見ました?
天使ですよ。
もうお肉なんてなくても、王子サマの笑顔だけで白米が食べられます……あ、もうお米もなかったんでしたっけ。

……メイド、お前のその前向きさは評価するが、物理的にお腹は膨らまないんだ。
このままだと、その尊い主が倒れてしまうぞ。
厨房の奥から、シェフの現実的な、しかしどこか王子を心配する声が響く。
しかし、当の主(あるじ)はといえば。

あはは、くすぐったいね!
そんなに僕サマの膝の上がお気に入りなのかな?
王子は、中庭の陽だまりで丸まった猫の喉を撫で、のんびりとあくびをしていた。
「自分で稼ぐ」という厳格な掟も、「城を立派に」という父上の言葉も、今の王子にとっては、午後の柔らかな日差しの中に溶けて消えてしまう、遠い国の物語のようなものだった。
大臣の悲鳴と執事の影

……8、9、10……。ああ、足りない!
王子、猫と戯れている間に、ついにこの国の『未来』が枯れ果てましたぞ!
長い長い石造りの廊下。
その静寂を切り裂いたのは、鋭く、そして悲痛な、算盤(そろばん)の珠が弾ける音だ。
和装の大臣は、震える手で算盤を抱え、ピカピカに磨き上げられた冷たい床に膝をついた。

王子!、見てください!
この明かりのつかないシャンデリアを。
王様から仕送りを断たれ、我らの蓄えは底を尽きました。
このままでは、このお城の維持費……いわゆる『どめいん代』さえ払えず、このお城は消えてしまうことになります!

大臣、そんなに大きな声を出したら、猫が逃げてしまうよ。
……でも、確かに最近、お部屋がちょっと暗いし、お肉の匂いもしなくなったね。
ってかパンの耳ばっかり食べてる。
王子は、ようやく手元のパンの耳……たった一切れ、カリカリに乾いたそれを見つめて、少しだけ困ったように微笑んだ。

――王子。悠長なことを言っている場合ではありませんっ!
銀縁の眼鏡を光らせた執事が、音もなく柱の影から現れた。
その手には、一枚の「布告文」が握られている。

王様は仰いました。
『自立せぬ者に、真の王国の門は開かぬ』と。
王子が猫と遊んで過ごす自由を愛するなら、我々はその自由を維持するための『軍資金』を、稼がねばなりません。
……そこで、私は新たな法案を作成しました。
名付けて『王子甘やかし隊・設立計画』ですっ!!
マカロンとパトロン

王子甘やかし隊?

左様でございます、つまりはパトロンでございます。

パトロン……?
なんだいそれは。
新しいマカロンの種類かなにかかな?
甘くて、サクサクしておいしいのかな?

いいえ、王子。
食べ物ではありません。
執事は動じることなく、淡々と説明を続ける。

パトロンとは、王子の活動を支えてくださる支援者のことです。
わかりやすく申し上げれば、王子を無条件に『甘やかしてくれる方々』のことです。
皆様からの支援があれば、王子の食卓にお肉が並び、シャンデリアは再び輝き、さらには……この国を共に支える重要人物を雇い入れることも可能になるでしょう。

僕サマを、甘やかしてくれる人たち……。
それはつまり、僕サマと一緒に遊んでくれる仲間や、お肉をくれる人たちのことだねっ!
パッと顔を輝かせる王子。
しかし、執事はその無垢な笑顔を見つめながら、眼鏡の奥で冷たく目を細めた。

左様です。
ただし、王子。
……支援という名の『絆』が生まれなかった時、この城や住人がこの物語からどう消えていくか。
その結末までは、今の段階では申し上げぬ方がよろしいでしょうな…。

王子サマ、もう調味料もございません。
明日のスープは空気のスープでございます。
せめて温かくしてお召し上がりいただくことしかできません…。
王子甘やかし隊(サブスク)の説明
【王子を甘やかし隊:月額 100円】
- 特典
王子サマが妄想を膨らませた、豪華な「理想の次回予告」が読めるようになるよ。
理想と現実のギャップを楽しんだり理想通りになったよろこびを分かち合うことができるよ。
【王子をもっと甘やかし隊:月額 500円】
- 特典
下位プランの特典込みだよ。
王子サマの秘密の場所(Xの鍵垢)へ招待するよ。
非公開情報を知ることができるよ。
【王子を最高に甘やかし隊:月額 1,000円】
- 特典
下位プランのすべての特典。
インスタの「親しい友達」に設定するね。
親しい友達の投稿やストーリーをみられるよ。
Xの鍵垢でフォロバするよ、王子サマにリプで要望やアイデアを伝えられるよ。
王国の未来はあるのか

……というわけで、僕サマを甘やかしてくれる仲間を募集することにしたよ。
具体的な準備に入るね!
王子ののんびりとした、けれどどこか晴れやかな宣言が、静かな玉座の間に響いた。

ああ……!
なんて素晴らしいお考えでしょう!
王子サマの尊さを世界に知らしめるチャンスですね!
私、一生ついていきます!
たとえお城が砂漠になっても、僕サマさえいればそこは楽園です!
メイドは、両手を合わせて目を輝かせ、その場に崩れ落ちんばかりに感動していた。

……ま、待つですじゃ!
その『ぱとろん』という方々が現れるまで、我々の胃袋と金庫はどうすればよいのですか?
王子、今すぐその猫を置いて、一緒に算盤を弾くですじゃ!
大臣は、涙目で算盤を激しく振り回すが、王子は「あはは、大臣の算盤はいい音がするね」と、どこ吹く風だ。

――やれやれ。
では、まずはその募集要項を街の掲示板……いえ、『いんたーねっと』という場所に貼り出すとしましょう。
執事は冷静に、けれど少しだけ口角を上げて眼鏡を直した。

王子。
パンの耳のソテーが冷める前に、食事にしましょう。
……シェフが今日のは少しだけ、いつもより『豪華』に見える工夫をしたと言っていましたよ。

本当?
それは楽しみだね。
……あ、でもシェフ。
グリンピースだけは、絶対に入れてないよね?
王国の明日は、まだ誰にもわからない。
けれど、この少しだけ賑やかになった静かな城に、新しい風が吹き始めたことだけは確かだった。



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