古来より、王の役割とは「祈ること」であったという。
民の安寧を、国の繁栄を、そして明日の天気を。
しかし、ここ「ワガママ王国」の王子が祈るものといえば…
「今日のおやつがマカロンでありますように」
「ゲームのガチャで神引きできますように」
「大臣がお小言を言う前に寝落ちしますように」
といった、極めて個人的かつ現世利益(げんぜりえき)に特化したものばかりであった。
そんな王子の独りよがりな祈りに、ついに「上」が動いた。
これは、一人のワガママな王子が、夢の中で神様にボコボコにされ、なりふり構わぬ「神頼み」へとシフトした、ある朝の物語である。
■ 第一章:城に響く悲痛な叫び

あああああ!
もうダメだ!
僕サマの…僕サマの華麗なる集金…じゃなくて、ファンクラブ計画が、音を立てて崩れていくぅぅ!
朝日が差し込む玉座の間。
そこには、高価な椅子に座る代わりに、配送用資材の「プチプチ(緩衝材)」を全身に巻き付け、芋虫のように床を転げ回る王子の姿があった。

王子、朝からその…汚らしい、いえ、前衛的な装いは何事ですか。
算盤の音が乱れます。
和装の裾をさばきながら、大臣が冷たく言い放つ。

大臣! 聞いてよ!
『甘やかせ隊』に、誰も入ってくれないんだ!
3段階もプランを作ったのに!
特典だって一生懸命考えたのに!
このままじゃ、今月の城の魔法(Wi-Fi)が切れて、僕サマはネットの海で遭難しちゃうんだよ!

王子、それを世間では『爆死』と呼びます。
裏垢でリクエストを聞くなどという、貴方様のキャパシティを超えた労働を提示するから、民も『あ、これ長続きしないな』と見抜いたのでしょう。
執事が銀縁メガネを指でクイと上げ、冷めた紅茶を床に転がる王子に差し出した。
■ 第二章:マカロン大明神の御神託(ごしんたく)
王子はプチプチを脱ぎ捨て、ガバッと起き上がった。
その目は、恐怖と希望が入り混じった妙な光を放っている。

違うんだよ、執事!
僕サマが反省してるんじゃない!
神様に怒られたんだ!
昨日の夜、夢の中に『マカロン大明神』が現れたんだから!

…マカロンの神。
なんとも…その、お腹の空きそうな神格ですな。

すごく怖かったんだよ!
ピンク色の光に包まれて、『お前のプラン設定は不退転(ふたいてん)すぎて、民が寄り付かんのじゃ!
救済の心を持て!』って、マカロンの形をした杖でポカポカ叩かれたんだ!

……。
王子、それを言うなら『不相応(ふそうおう)』か『不遜(ふそん)』でしょう。
神様にまで語彙力のなさを露呈したのですか。

とにかく!
神様が『城の中に神社を建てて、みんなで幸せを祈る場所を作れ』って言ったの!
これぞ一網打尽(いちもうだじん)の解決策だよ!

王子…それを言うなら『一石二鳥(いっせきにちょう)』です。
…しかし、神社ですか。
和装の私としては悪い気はしませんが。
■ 第三章:三〇〇円の慈悲と、玉串料の謎
王子はどこからか赤い段ボールを取り出し、ガムテープで鳥居の形を作り始めた。

いい?
今までのプランは全部ポイ!
裏垢もポイ!
これからはワンプラン、『玉串料(たまぐしりょう)』として三〇〇円だけもらうことにしたんだ!
(柱の陰から連写)

ひゃあああ!
王子サマが『玉串料』なんて難しい言葉を!
尊い!
尊すぎてシャッターが止まりません!
300円なんて、スタバのコーヒーより安いですよ!
実質無料、いやむしろ私たちが利益を得てます!

そうでしょ!
メイド、いいこと言うね!
300円なら、民も『お賽銭』感覚で投げやすいはず。
その代わり、僕サマは月に一度、有料エリアでみんなのために全力で『祈祷(きとう)』をするんだ。
神様が言うんだから、効果はバツグンのはず!

ほう、神事ですか。
ではお供え物は、健康を祈願してグリンピースを翡翠の勾玉(まがたま)に見立てた、特製『豆づくし膳』にいたしましょう。

シェフ!
それは僕サマへの嫌がらせでしょ! 却下!
お供えはマカロンか、余ったお金で買う『お肉』って決まってるの!
■ 第四章:ワガママ神社、本日開山!
結局、王子の勢い(と「神様のせいにすれば楽になれる」という大臣の打算)により、城の中庭には立派な…と言い張るには少々頼りない、段ボール製の鳥居が完成した。

では、私が宮司として算盤を弾き、この玉串料を『城の通信維持費』として厳重に管理いたしましょう。
王子、もしお賽銭が集まらなければ、その時は…

切腹禁止!
掃除が大変だからって、さっき執事に怒られたでしょ!

……。
まあ、個別のリクエストに応えようとして王子がパンクするよりは、勝手にお祈りさせておく方が、城の平和は保たれるでしょう。
王子、扇子の持ち方がなっていません。
やり直しです。

もー、厳しいなあ!
でも見ててよね!
この『ワガママ神社』で、僕サマも、みんなも、もやしも、全部ハッピーにしてみせるんだから!
こうして、ワガママ王国の片隅に、世界一ゆるくて世界一わがままな神社が誕生したのである。


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