雪が降り続く冬の日、空から一人の天使がふわふわと舞い降りてきた。
彼は春色のクレヨンを持っていて、真っ白な雪の世界に色を塗り始めた。
まずは雪の上に緑の草を描いて、そこから黄色い元気な花が咲いてきた。
次に青い空に白い雲を描いて、そこから暖かい太陽が顔を出した。
そして赤い鳥を描いて、鳥たちは美しい声でさえずりはじめた。
天使は楽しそうに色を塗り続けたが、人々は彼のことに気づかなかった。
みんな忙しくて、寒さに凍えて、暗い顔をしていた。
だけど天使は構わず塗り続けた。
自分の行動も存在も疑うことをしなかった。
自分を信じて、ひとりで黙々と春色を塗り続けた。
そんなとき、彼は一人の少女と出会った。
少女の心は冷たかったが、天使が塗った色が彼女の瞳を輝かせた。
彼女は天使が描いた春色の世界に驚いて、彼に話しかけてきた。
「あなたは誰?どうしてこんなにきれいな絵が描けるの?」
天使は驚いて、彼女に答えた。
「君は僕の色が見えるのかい?僕は天使だよ、春色のクレヨンでこの世界に色を塗ってるんだ。冬が終わって春が来るまでね。」
少女は嬉しそうに笑って「それはすごいね。私も一緒に色を塗ってもいい?」と天使に言った。
天使はうれしくなって「もちろんだよ、一緒にやろう!」と言った。
そして二人は手をつないで、春色のクレヨンで真っ白な世界に色を塗り始めた。
彼らはピンクの桜やオレンジの蝶や紫の虹など、想像力豊かなものを描いて、冬の世界を春の世界に変えていった。
雪だるまには水色のマフラーを描いた。
彼らが夢中で楽しく色を塗り続けていると、人々も次第に気づき始めた。
みんな驚いて、喜んで、感動して、彼らの描く絵や色を見つめた。
そしてみんな笑顔になって、お互いに抱き合い喜び合った。
しかし、彼女の幸せは長くは続かなかった。
夜がきて、せっかく2人で塗った春色が消えてしまったのだ。
人々はがっかりして家に入り、重い扉を閉ざした。
少女はすごく悲しんだ。
泣いて泣いて、彼女の春色は滲んでしまった。
「私の春の色は消えちゃったの?今日一日、一生懸命塗った色は、全部なくなっちゃったの?」
天使は優しく彼女の頭を撫でて、こう言った。
「大丈夫だよ、泣かないで。君の色は消えてはいないよ。」
「どういうこと?」彼女は天使に訊ねた。
天使は優しく答えた。
「君が描いた色は、太陽が沈んで眠りについたんだ。でも心配しないで、明日また太陽が昇ったら君の色は目覚めるよ。そして、それを繰り返しながら君の色は少しずつ本物の春になっていくんだ」
「本物?」
「そうだよ。君が描いたピンクの桜は満開になって散って大地を飾る。オレンジの蝶は花々を飛び回って蜜を吸う。紫の虹は架け橋となって世界をつなぐ。水色のマフラーは雪だるまが溶ければ誰かを暖めてくれるだろう。」
「ほんと?」
「ほんとだよ、僕は春を呼ぶ天使なんだ。このクレヨンは冬を春に変える魔法のクレヨンなんだよ。」
彼はそう言って彼女に微笑みかけた。
まるで春のお日さまのような暖かい笑顔だった。
不安だった彼女は彼の笑顔を見て、彼の言葉を信じようと思った。
彼は「また明日ね」と言った。
「また明日も、春色のクレヨンで世界を彩るんだ。また明日も色を塗ろう、春を待っている人たちによろこんでもらうんだ。」
彼女は明日が待ち遠しくなった。
早く明日がきてほしいと思いながら、眠った。
明日が楽しみだなんて、初めてのことだった。
次の日も、天使と彼女は春色のクレヨンで世界に色を塗った。
次の日も、また次の日も。
彼女は天使と一緒に夢中になって色を塗った。
夜になると春の色は眠りにつき。
朝になると目覚めた。
彼女の塗った世界は、夢でも幻でもなかった。
何日も何日もかけて色を塗り続け、やがて天使は少女と一緒に色を塗り終えると、彼女に別れを告げた。
「ありがとう。君と一緒に色を塗れて楽しかったよ。でも僕はもう行かなくちゃ。他の場所でも春色のクレヨンで色を塗らなくちゃいけないんだ」
少女は悲しそうに言った。
「えっ? もう行くの?私はあなたともっと一緒にいたいよ」
天使は優しく微笑んで、「大丈夫だよ。僕は君の心の中にいるからね。君が春色のクレヨンで色を塗れば、僕もうれしくなるよ。ちゃんと心は一緒にいるから、また会えるよ」
そう言って、天使は空へと飛んで行った。
少女は天使が消えるまで手を振って見送り、涙を流した。
少女は悲しくて寂しかったけれど、天使の言葉を思い出して勇気を出した。
天使の言葉を信じようと思った。
彼女は春色のクレヨンを握りしめて、自分の胸に手を当てた。
心はもう、冷たくなかった。
そして心の中で天使に誓った。
「私はあなたのことを忘れないよ。私はあなたのことを大切にするよ。私はあなたの夢を叶えるよ。私はこの世界に春色のクレヨンで色を塗り続けるよ」
そして少女は天使と描いた春色の世界で笑顔で暮らし始めた。
彼女は村人に優しく接して、彼らと仲良くなった。
彼女は自然に感謝して、自然を大切にした。
彼女は芸術に興味を持って、それを楽しんだ。
彼女は春色のクレヨンで色々なものを描いて、それを人々に見せた。
彼女が色を塗ると、人々も喜んで、感動して、彼女の絵を褒めた。
そしてみんな笑顔になって、お互いに幸せを感じた。
やがて冬が終わって春が来た。
空には虹がかかり、花が咲き、鳥がさえずった。
少女は春色のクレヨンで描いた絵と同じ景色に感動した。
彼女は空を見上げて、天使に話しかけた。
「ありがとう。あなたのおかげで私は幸せだよ。あなたのおかげでこの世界は美しいよ。あなたのおかげで本当の春が来たよ。」
すると空から一筋の光が降りてきて、少女を優しく照らした。暖かい風が、少女の頬に触れ、優しく撫でていった。
それは天使からの返事だった。
少女にははっきりと聞こえた言葉があった。
少女は涙を流しながら笑った。
彼女は天使と心でつながっていることを感じた。
彼女は天使と一緒にいることを確信した。
彼女は天使と色を塗った幸せな日々を思い出した。
少女は今日も春色のクレヨンでこの世界に色を塗り続ける。
やがてまた冬がきて、世界を白く染めても大丈夫。
もう彼女の心は寒くはない。
たとえ世界が夜に包まれても、また朝がきて色は目覚める。
彼女の塗った色は消えたりはしない。
そのことを、彼女はもう知っているから。
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